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サルガッソー海について

ホジスンのライフワークとも言える、「サルガッソーもの」。(注1)ヴェルヌの「海底二万リーグ」でも扱われていたこの海域は、一体どんな場所なのだろう。

 サルガッソー海とは、地理的にはアメリカの東にあるバミューダ島の南に広がる海域を指す。神秘的なイメージから、小さな場所を思いがちだろうが、かなりの広域に渡る海域だ。ミステリーゾーンとして有名なバミューダトライアングルは、この海域の西の端に接している。ちなみに、サルガッソーとは、日本名ではホンダワラという、藻の種類のことである。
(注2)
  ここは昔から<海の墓場>として有名な、海の難所の一つである。だが、広い意味で<海の墓場>として、地理にはこだわらずにこの名称を使われる事もある。
 ここが海の難所である理由、それ以上に<海の墓場>とまで呼ばれる理由は、主にその海域の独特の潮流にある。
  サルガッソーと呼ばれる海域を詳しく定義すると、「メキシコ湾流と赤道からの潮流によって作られる右回りの巨大な潮流の中にある海域」ということになる。分かりやすく言えば、渦潮の中のようなものだ。そのため水の入れ替わりが少なく、潮の流れも殆どないため、高塩度の、暖かいプールのような海域になっている。
  当然、栄養が乏しい海である。サルガッソー(ホンダワラ)と呼ばれる藻は多いが、それが栄養の豊富な地域であることを意味しているわけではない。その藻は、大きな魚にとって魅力的な栄養素に乏しい藻だからだ。まさに魚にとっても、生きてゆくには厳しい環境の、死の海域である。印象としては、死の海サルガッソーと言われれば、海の中の見通しが殆どない場所を思い浮かべると思うが、実は全く逆で、世界の海の透明度の記録はこのサルガッソーで作られたものである。66メートルというのがその記録だが、透明度が高いというのは、つまり貧栄養ということなのだ。
  船乗りにこの海域が恐れられた理由は、以上を踏まえて考えると、つまりこういうことだ。
  その名前の由来どおり、ここがサルガッソーと呼ばれる藻が多いということ。さらに、その流れ藻の島の多く漂う海域だからというのがひとつ。ここに流れ藻の多い理由は、後にも書くように、ここが潮流のたまりになっている海域だからで、自然と集まって来てしまうのだ。流れ藻の漂う光景は見るだに不気味だし、生還できた船乗りのはその様子が強烈に印象に残っただろう。また、船にとっては藻がスクリューに絡み付いて、身動きが取りづらくなるという被害もある。昔なら、なおさら一度はまりこんでしまうとなかなか抜け出せなかったにちがいない。
  それに加えて、ここはメキシコ湾流と赤道からの潮流によって作られる、右回りの大きな潮流の内部にあり、それゆえにほとんど潮の流れがない。また、気候的にもほとんど風が吹かないから、船にしてみれば推進力になるものがまるでないという、悪条件の塊のような場所になっている。したがって、多くの船がこの海域で立ち往生し、遭難した(有名な遭難事件にコロンブスのものがあるが、彼は偶然吹いた風に助けられ、辛くもこの海域から生還した)。さらにまずいことに、この辺りは海の砂漠とも呼ばれる乾ききった場所で、真水を確保するにも雨も降らない。さらには、釣りをするにも魚さえほとんどいない。そうした最悪の条件の下では、たとえ生還できたとしても、飢えと乾きに相当苦しんだだろう。そうした苦しみと恐怖は、強く印象に残ったにちがいない。
  だが、かつての船乗りたちに恐れられた海域も、現在のように、エンジンで進む船にとってみれば風や潮はたいした問題ではないので、もはやサルガッソーにはかつてのような<船の墓場>としての神秘はない。また、イメージとしてある巨大ダコなども、ここは栄養の乏しい海域なので、おそらくいないだろう。
 むしろこの海域が最近注目を浴びているのは、あらゆるうなぎの巣がここであるという発見のことだろう。うなぎはサルガッソーで産卵し、レプトセファルスと呼ばれる“うなぎとは似ても似つかない”稚魚はそれぞれ変態しながら大陸を目指す。そして成熟したうなぎは、ふたたび河を下り、サルガッソーを目指すのだ。
 こうしたことについては、たとえばここなどに詳しい。

 

注1) ホジスンの「サルガッソーもの」は、1906年の「From the Tideless Sea」を嚆矢とし、 生涯を通じて手変え品変え、発表され続けた。

 

注2) 日本の海でもごく普通に見られる海藻。葉に気泡体がある。ヒジキなども、日本固有のホンダワラ類の一種である。塩を取るのに、昔はホンダワラを煮詰めてとるということが一般的に行われていた。こうすると、ミネラルの豊富な塩がとれるらしい。

 

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